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バツイチ派遣40代女性の日記です

あばうとー  読者になる  follow us in feedly

恵子

elve.hatenadiary.jp

「嘘でしょ!?」
子供が人様の方向にうどんの器を倒したとき、そう思った。
「嘘でしょっ!?」
その人に「恵ちゃん」と呼ばれたとき、再びそう思った。
いけない、美紀に、これ以上負担をかけては、いけない。きっと私のことなんて思いだしたくもなかったはずだ。
ごめんなさい、ごめんなさい。
私からなんてお金も受け取りたくないでしょう。
ああ、もう、どんな顔すればいいのかさっぱりわからない。

大慌てで店を出た。失礼だったろう。でもこれ以上同じ空間にいる方がよっぽど失礼だと思った。

頭がフル回転する中、体はほぼ自動的に子供の世話をする。
家で子供が昼寝をし始めた。

ああ、何てことだろう。漸く忘れたと思っていたのに、本人に会ってしまうなんて。
美紀は・・・嫌な女だった。何でも私のものを欲しがった。何でも私のまねをした。だから私は・・・美紀に・・・とても評判の悪い男と付き合ってると嘘をついたんだ。思ったとおり、その男に擦り寄っていく美紀を見て、私は別の友達と影で大笑いしていた。

でも、その男が自慢げに語る内容が、今で言うデートレイプになったとき、笑えなくなってしまった。
その後、別れる別れないでストーカー化した男に美紀は疲弊していた。当時はそんな名前もついていなくて、相談先もなくて、自業自得でしょという空気だった。私は美紀を見るとつらくて、目も見れなくなった。極力顔を合わせないように過ごした。高校3年。受験勉強で学校に行くことも減っていき、ちょうど良かった。

男性不信になった美紀が大学受験に失敗したと風の噂で聞いた。

私は、それでもそのときは美紀が悪いと思っていた。

この子を産んでからだ、後悔したのは。何でも私のまねをしたがる子供を見て、美紀を思いださずにいられなかった。
私は美紀の好意を、すべて悪意で返してしまった。
その事に気付き、後悔したのだ。あのコの人生をメチャクチャにしてしまったに違いない。高校生なんてまだまだ子供だったのに。

友達に美紀の事を聞いても、就職活動の話などについてこれない美紀とは次第に連絡がなくなっていったという話しか聞けなかった。私は彼女の人生から男だけじゃなくて友達まで奪ってしまったのだと恐ろしくなった。

まだ、結婚してないみたいだった。

慌しく子供の世話をして、あっという間に日が暮れていく。

子供を寝かしつけてから耐え切れなくなって夫に全て話した。誰かに許されたかった。
「傲慢だねぇ~」
夫はのんびりとした口調で言った。
「だから反省してるってば!」
思わず口調が荒くなる。
「違うよ、今の恵子の考え方が。恵子は湖に大きな岩を投げ込んだかもしれない。そんときゃ水面が大きく乱れただろうさ。でもそれで、その湖は駄目になったって言ってるようなもんだよ、今」
「あ・・・そう・・・かな?」

夫の言葉に自意識過剰になっていた自分を感じ、恥ずかしくなった。
そう、あの美紀が私のせいで人生狂わすなんて、おこがましい考え方だ。

スマホがブブっと鳴った気がした。