スナックelve 本店

バツイチ40代女の日記です

情熱キッスを君に

小さい頃、同じ市内に住む母方の祖父母の家に行く事がちょくちょくあった。
祖母の家には従兄弟がいて、一緒に遊ぶのは楽しかったけど、騒ぎすぎたり、大人の会話に参加しすぎると家に帰ってから母にこっぴどく叱られた。

祖父母と従兄弟が「家族」なのに対して、外孫の私たちは「お客様」だったように思う。いつも「大歓迎」され、帰るときには雪の中でも外に出てきて、見えなくなるまで手を降ってくれていた。

楽しい祖父母の家だが苦手なことがあった。祖母のキッスである。
祖母は私をみると駆け寄り、頬にキッスをしてくるのだ。大袈裟に息を吹き付けて「ぶー」っと音を立てるそのキッスが私はとても下品に感じて嫌だった。時に泣いて嫌がった。大人たちが笑うのが、また許せなかった。

それから30年以上の時が過ぎた。
その内20年を寝たきりで祖母が過ごしていると言うことを、今書いていて何度も数えてしまった。
私と祖母が共有した時間の短さよ!

今回、祖母におそらく最期の挨拶をするために北海道に帰った。
私はひとつ企んでいた。
ばぁちゃんに、ぶーってキッスをしてやろう。仕返してやろう。
もらったもの、何も返せなかったから。
キッスくらい返そう。

施設の入り口に、アルコールとマスクがあった。

ああ、ばぁちゃん。本当に何も返せないよ。ごめんね。ありがとう。

最後まで薄情で、ごめんね。